PowerPointでBCGマトリクスを作る実務手順【コンサル流】
元コンサルタントが解説する、PowerPointでBCGグロース・シェア・マトリクスを作る実務手順。軸の設定、象限の色分け、バブルの重なり回避、凡例の作り方まで。
前職で一緒に働いていたPEファンドのアソシエイトが、投資委員会向けの資料のためにある日曜日をまるごと1枚のスライドに費やしたことがある。ポートフォリオ企業11社を、市場成長率と相対市場シェアの2軸でプロットするというものだ。分析そのもの――どの事業が前回のレビューからStarからQuestion Markへとポジションをずらしたか、なぜそうなったか――は90分ほどで片付いた。残りの時間はすべてPowerPointに消えた。象限の背景色を軸のスケールに正確に合わせ、重なった3つのバブルを実際の数値上の位置を崩さずに離し、売上高に応じたバブルサイズの凡例を、取ってつけたようには見えない形で作る。それだけで日が暮れた。
この「分析90分、フォーマット数時間」という比率こそが、BCGマトリクス(グロース・シェア・マトリクス)のスライドが面倒だと言われる本当の理由だ。フレームワーク自体は古く、単純なものだ。BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の創業者ブルース・ヘンダーソンが1970年に発表した論考「The Product Portfolio」で示して以来、Star・Cash Cow・Question Mark・Dogという4象限のロジックは変わっていない。変わっていないのは、事業ごとの市場シェアと成長率という数字の並びを、パートナーや投資委員会が差し戻しなしで受け取れる1枚に仕上げる作業の面倒さの方だ。
「バブルチャートを挿入する」だけでは終わらない理由
この手のテーマの解説記事は数多くあるが、そのほとんどが「挿入 > グラフ > バブル」を選び、ワークシートに数値を入力するところで終わっている。それで出てくるのは、白背景の上に既定の軸ラベルが付いた円の散らばりに過ぎない。BCGマトリクスとして成立するスライドにはならない。なぜなら、実際の作業はグラフを挿入した後にあるからだ。4つの象限を視覚的に区別すること、2つの事業が近接した位置に来たときでもラベルを読めるようにすること、売上高の差が一目で分かるようにバブルサイズを調整すること、そして事業が売却されたり新製品ラインが加わったりしたときに5分で更新できる状態にしておくこと。これらを飛ばせば、それはただのバブルチャートだ。押さえれば、クライアントが信頼する1枚のマトリクスになる。
マトリクスを組み立てる手順
1. データを入れる前に軸を固定する
「挿入 > グラフ > 散布図(X, Y) > バブル」でグラフを挿入し、相対市場シェア(X軸)、市場成長率(Y軸)、売上高などのサイズ指標(バブルサイズ)の3列を入力する。ほかの書式をいじる前に、軸の最小値・最大値は「自動」のままにせず、必ず手動で固定する。横軸を右クリックして「軸の書式設定」を開き、業界平均シェアのライン(相対シェア軸なら通常1.0倍の位置)が横軸の中央に来るよう最小値・最大値を設定する。縦軸の成長率も同様に、高成長/低成長の境界線(多くの場合、市場全体の成長率)が縦の中央に来るように調整する。軸が境界線を中心に固定されていないと、4つの象限は象限ではなく、ロジックと噛み合わない不揃いな4領域になってしまう。
2. グラフ本体と戦わずに象限を色分けする
PowerPointのグラフ書式設定には「この象限だけ塗る」という機能が存在しない。そのため確実な方法は、4色の背景を、グラフの中に組み込むのではなく、グラフの背後に置く別の四角形として作ることだ。グラフのプロット領域の境界に合わせて、各象限をちょうど覆う4つの四角形を描く(一時的に目盛線を表示すると位置合わせがしやすい)。その四角形を最背面に送り、バブルチャート自体の背景を透明に設定して上に重ねる。この切り分けには意味がある。後でグラフをリサイズしたときに背景の四角形は自動追従しないという欠点はあるが、その代わり、元データを更新した際にPowerPointのグラフ機能がプロット領域の色を勝手に上書きしてしまう事態(プロット領域自体を象限ごとに塗ろうとすると起きる)を避けられる。
彩度を落とした色――デックの配色の淡いバージョン――を使い、バブルとラベルが視線の主役であり続けるようにする。よくある配色は、Star(左上、高成長・高シェア)に暖色系、Cash Cow(左下)に寒色系またはニュートラルカラー、Question MarkとDogには段階的に薄い色やグレー系を使う組み合わせだ。デック全体ですでに使っている配色ロジックと揃えること。マトリクスだけ独自の配色になっていると、テンプレートから貼り付けたように見えてしまう。
3. ラベルの重なりは後回しにせず先に潰す
バブルが6〜15個ある場合、少なくとも2〜3個は近接してデータラベルが重なる。PowerPointの自動ラベル配置には頼らない方がいい。既定ではバブルの中心にラベルを置こうとするため、密集した象限では確実に重なる。代わりに、ラベルを1つずつクリックしてバブルの近くの空いた位置にドラッグし、バブル1個分以上離れた場合は引き出し線を付ける(ラベルを手動で移動させた後に「データラベルの書式設定」で引き出し線をオンにできる)。密集している箇所――たいてい成長率軸の中央付近、平均的な事業が集まりやすい場所――から先に処理し、孤立したバブルは調整の必要がほとんどないので後回しにする。事業数が多い場合は、正式名称ではなく略称+脚注の対応表にすることも検討する。12個のバブルに正式名称を詰め込んでも、どれだけ丁寧に配置しても読めないままだ。
4. 当てずっぽうではない凡例を作る
バブルサイズが売上高を表すマトリクスは、見る人がサイズを実際の数字に変換できて初めて意味を持つ。グラフ本体とは別に、単純な円を3つ、サイズを大きくしながら描き、それぞれに「10億円」「50億円」「100億円」のような代表値のラベルを付けた参照用の凡例を用意する。PowerPointはバブルの値を面積(直径ではなく)に比例させて描画するため、目分量での作成は当てにならない。実際のグラフの中から数値が分かっているバブルを2つ選んでピクセル上の直径を確認し、そこから比例計算で凡例の円のサイズを決める。凡例は、生きている象限と重ならない下の隅、通常はX軸ラベルの下に配置する。
5. ポートフォリオは変わる前提で組んでおく
社内レビュー用の版とクライアント向けの最終版の間に、少なくとも1つの事業の数字は動くのが普通で、事業売却や新製品ラインの追加でバブルが1つ丸ごと増減することもある。象限の色分けをグラフに埋め込まず別の四角形として作っておけば、データそのものの更新は簡単だ――グラフのワークシートを編集すればバブルは自動的に位置を変える。自動で追従しないのは、手動で配置したラベルとバブルサイズの凡例だ。位置が変わったバブルはラベルの再ドラッグが必要になり、売上高のレンジが大きく変わった場合は凡例の円のサイズも比例が崩れるため作り直しが要る。この工程はテンプレート紹介型の解説記事がほぼ触れない部分であり、次に「数字を更新した版をもう一つ」と頼まれたときに、5分の手直しで済むか、スライドをゼロから作り直すことになるかを分ける工程でもある。
ツールが実際に効いてくる部分
Advisioを作った理由の一つは、まさにこの種のスライドにある。PowerPointに組み込まれるアドインとして動くため、事業のシェアや成長率の数字が変わったとき、あるいはポートフォリオに製品が加わったり外れたりしたとき、バブルの配置、象限の色分け、新たに生じた重なりを避けるラベルの再配置、サイズ凡例の再スケーリングまでを、今作業している同じスライドの中でまとめて組み直す。事業がなぜそのポジションにあるかを理解する部分を代わりにやってくれるわけではない――そこは変わらず自分の頭で考える部分だ。ただ、数字が動くたびに発生していた数時間の手作業の再配置がなくなる。実際の案件では、それが思っている以上に頻繁に起きる。
フレームワークは古くても、スライドの作業は今も本物だ
BCGマトリクスがデックの中で存在感を持つのは、どこに投資し、どこで収益を刈り取り、どこを切るかを議論するうえで、4象限のロジックが今も純粋に使えるからだ。それはヘンダーソンが1970年に書き上げてから今のポートフォリオレビューまで変わらない。その有用性はPowerPointとは無関係だ。ただ、スライドの側には、中央に固定された軸、グラフ機能と戦わない象限の色分け、重ならないラベル、実際に数字を読み取れるサイズ凡例が必要になる。この4つを一度きちんと押さえておけば、次に事業の数字が動いたときも、マトリクスは作り直しではなく編集で済む。